美学会西部会 2025年12月13日(土)

ポスター発表募集


ポスター 01

スウェーデンのロマン主義風景画における森の表象

池山加奈子(大阪大学)


本発表は、19世紀のスウェーデンのロマン主義絵画における森の表象を取り上げ、当時のスウェーデンの自然観をあらわすものとして解釈する。この時代のスウェーデンでは、ドイツやイギリスの影響下にあるロマン主義の自然観と、ナショナル・ロマンティシズムに基づく自然崇拝が共存していた。前者における森は、人間が近づくことのできない神性なる対象を意味した。マルクス・ラーション(Marcus Larson, 1825-1864)の作品に見られる薄暗い森は、畏怖の念を喚起する。後者における森は、民族固有の精神性を意味した。ニルス・ブロメール(Nils Blommér, 1816–1853)やアウグスト・マルムストゥルム(August Malmström, 1829–1901)、ヨン・バウエル(John Bauer, 1882-1918)は、妖精やトロールなどの民話や民間伝承のモチーフの描写を通じて森を幻想的に描いた。両者の表象が意味するものは一見すると相異なるものの、森はこれら2つの意味を架橋する空間としての役割を果たし、この空間が、画家たちにスウェーデンの自然観を再創作せしめたことを、本発表は示す。


ポスター 02

バルザック「ピエール・グラスー」に登場する肖像画家たち

山口詩織(京都大学)


「ピエール・グラスー」は、バルザック(Honoré de Balzac, 1799-1850)が1839年に発表した短編小説である。才能に恵まれない画家が、偶然の巡り合わせによって、ブルジョワ階級の支持を得、肖像画家として成功していく様を描いている。作中には、ドラクロワやアングルといった大家をはじめ、デュビュフ(Claude-Marie Dubufe, 1790-1864)やヴィニュロン(Pierre-Roch Vigneron, 1789-1872)など、19世紀において高名だった肖像画家たち、すなわち〈ブルジョワ芸術家〉の名が挙げられている。先行研究では、サロンやブルジョワ、商業芸術の関連から論じられてきたが、作中に登場する実在の画家たちへの言及は十分ではない。本ポスター発表では、これらの肖像画家等に着目し、当時の美術批評と作品、スタンダール(Stendhal, 1783-1842)の小説『フェデール』(1839)を踏まえつつ、作中で挙げられた画家の名前が同時代の読者にどのように読まれ、作用したのかを探る。